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『恋心 koigokoro ボクノオモイ』
#2 スキナノ?




 全身を脈打つ音が頭に響いてうるさい。打ちつける度にこめかみに鈍い痛みを感じる。単なる悪ふざけ……。にしては、かなり濃厚なキスをされた。
 山川に怒りの一言でもぶつけてやりたいと思うのだが言葉が出てこない。

 動揺している?そんなたかがキスぐらいで?

 平静を保とうとしているのだけれど、じっとりとした汗が噴き出してきて背中はいくつかの筋が出来ているのが分かる。自然と手にぐっと力が入ってしまう。原因は分かっている。克哉に見られたことに戸惑っているんだ。俺はそれを周りに悟られないよう、平常心を維持するのが精一杯だった。

「何してんだよ」

 克哉は全くの無表情で俺たちのそばまで近づいてきた。そこから克哉が何を考えているのか読み取ることはできない。不機嫌なのか?怒っているのか?だとしたら、何が原因でこのような態度をとっているのだろう。さっきの女の子と何かあったのだろうか?
 俺がこうしてあれこれと考えているのをよそに山川は、もともと感情の起伏の薄い克哉を煽るようにゆっくりと口を開いた。

「何って野島クンがさぁ。ちょっと可愛くってキスしちゃった」

 周りの奴らが興奮を抑えきれないっといった様子でこれまでの経緯を話しているが、克也には全く耳に入っていないようだ。克哉に氷のように冷たい視線を向けられて背中にビリッと電流が汗に沿って流れる。思わず視線を逸らした。山川はうっすらと湿った下唇をなぞる様に舐めながら上目づかいで克哉を見ている。

 今日の山川は変だ―――。

 なんだって、そんなに攻撃的な態度をしているんだ。わざと克哉の怒りを煽動しているように見える。フッ…と息を漏らし、一瞬顔の表情が緩んだかと思ったが、克哉は蔑むように笑顔を山川に向けた。

「山川…。お前かわいそうだな。女紹介するか?」
「あはっ。さっすが、モテる奴の言うことは違うよね。お願いしたいところだけど、俺さぁ井上みたいにマメじゃねーからなぁ…」

 克哉の発言に周りの奴らが「オレに紹介してくれ!」「合コンをしよう!」などと騒ぎ始める。色めき立った奴らには、この二人の一触即発な雰囲気が感じられないようだ。きっと今口を開けば、余計なことまで感情的に口走ってしまいそうで、俺はグッと奥歯を噛みしめた。なに動揺してんだっつーの、たかがキスぐらいで…。

「なぁ。野島。お前初めてじゃないだろ」
「え?」「―――!」
「野島ー。すぐ顔に出るからなぁ…。かっわいい」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべ山川は俺と克哉の反応を楽しんでいるかのように交互に視線を送る。
 顔に出るって俺、今どんな顔してるんだ…。
 体中の血液がすべて上ってくるんじゃないかと思うぐらいに顔が熱くなり、手足の末端は反するように冷たく汗が流れると身震いがする。ちょうどタイミングよく授業開始のチャイムが鳴り、居たたまれない緊張感から解放された。


*****


「鳴海!」

 放課後、バンドの練習へ行こうとしているところを克哉に呼び止められた。
 
「今日からちょっと一緒に帰れないからね」

克哉は顔の前で両手を合わせ「ごめん」と謝る仕草をしながら、申し訳なさそうな表情を見せた。

「うん。わかってるよ」
「泣くなよ」

克哉は頭をポンポンと軽くたたく。

「な…なに言ってんだよ。泣くかよ。ばーか」

 俺はただその後姿をぼーっと見送った。克哉が触れてきた手の感触が頭に、髪に残っている。昼間はあんなに山川に怒りを向けていたのに、すっかり忘れているようだ。だよな……。克哉のアレは、小さい子どもが自分の大切なおもちゃを取り上げられて、怒っているのと同じなんだ。決して俺が期待するような感情からのものではないのだと、今更ながら思い知らされてやりきれない。
 克哉が階段の角を曲がる直前、ふと足を止め振り返った。

「あー。なーるー。もう山川にキスさせたらダメだからね」
「お…お前に…関係ないだろ。さっさと早くいけよ」

 克哉は「はいはい」と笑みを浮かべて手を振り、階段の壁の向こうへ消えて行った。胸にチクリとさっきとは違う痛みが走る。
 
 だっせーの…俺。いつものことじゃんかよ。ったく…いい加減慣れろよ…。
 はぁ…。行きたくねぇ。
 鉛のように重たい足を引きずり部室へ向かった。



「おっせーぞ。野島。ギターいなかったら練習にならんっしょ」

 佐伯がベースのチューニングをしながら言った。特に誰がリーダーとは決めてなかったらしいが、自然とこのバンドのまとめ役となっている。
 このバンドCosmicEarth(コズミックアース)はリードG、サイドG+ヴォーカル、ベース、ピアノ、ドラムの5ピースバンドの構成をとっている。俺はリード担当。ギターのテクニック的には山川も俺もさほど違いがない。だが、山川の歌唱力は抜群だった。
 
「あ。わりぃ」

 ギターを取りだすと、急いでチューニングを済ませた。できることなら、今すぐにでも帰りたい気分なのに、どうしても練習に参加しなければならないのには理由があった。ライブハウスでバイトをしている山川の先輩から「前座としてだけど出演してみないか?」と誘いを受けていた。今まで学園祭や校内のちょこっとしたイベントでしか演奏経験のない俺たちにとっては、願ってもない申し出だった。
 ライブイベントまではちょうど一か月だが、その前に期末試験も控えている。時間があるようで、実はかなり制限されていた。
 イベント当日はオリジナルの三曲演奏することになっている。二曲は山川と佐伯が作詞作曲をし、残りの一曲は俺が作ったものを選んだ。山川たちが作った二曲は俺たちの定番曲となっていたのだが、俺の作った曲は今回が初演奏となる。
 俺は兄貴の影響から小学生のころからアコギをいじっていた。最初は好きなアーティストのコピーをしていたが、次第に物足りなくなり作曲にのめりこんだ。だけど歌詞をつけるとか、ましては人前で弾こうなどとは考えにも及ばなかった。山川に話をしたときに聞かせてほしいといわれ、そのうちの何曲かに「歌詞を書いてみたら?」と言われたうちの一つが今回の選曲となった。

 その日の練習は少し構成に修正やアレンジを加えながら、曲を通し練習を終えた。

 どっぷりと日も暮れて、外は完全に夜の色へと変化していた。窓ガラスに俺たちの姿がくっきりと浮かび上がっていた。風も出てきているようで、ベランダに無造作に干された雑巾がパタパタと音を立てている。
 ギターの手入れをしていると、山川が隣にやってきた。

「あれ?今日はお迎えないの?ひとり?」

 昼間の山川の行動がフラッシュパックして、思わず体がビックンと反応し避けてしまった。

「あはは。すっげーいい反応。もうあんなことしねーよ」
「……」

 山川を睨みつけた。

「今はね」

 山川が肩に手をかけ耳元でささやくように言った。俺はとっさに耳を覆い再度睨み付ける。
 いまいち山川の考えていることがわからない。こんなやつだったけか?
 俺は山川を無視して帰りの支度を続けた。一足先に、佐伯達が部室を出ていく。

「臣多(じんた)戸締り頼むわ」
「りょーかい」
「お前、あんまり野島いじめんなよー」
「ばーか。かわいがってんだよ」
「のじまー。臣多にまた襲われないように気をつけろよ」

 山川は手で追い払う仕草をして、佐伯達の帰りを促した。

 俺は誕生日に克哉から貰ったピックケースを鞄の中から取り出した。背中に張り付くような視線を感じて、視線を上げると窓ガラスの山川と目があった。ゾクッと背中に悪寒が走った。

「井上、また女できたんでしょ?いつまでもつかね?」

 俺は徹底して無視した。山川とはこれ以上気まずい関係にはなりたくなかった。何を考えて俺に絡んでいるのかわからないから、無視することで現状を回避しようとした。なのに、その気持ちは伝わらないのか、執拗に絡んでくる。

「野島…。さみしい?」
「なっ…なに言ってんだよ」
「顔に書いてあるよ」

 はっ。思わず顔に手を当てた。
 山川は「ククッ」と含み笑いをしながら、背後から首元に顔を近づけてきた。辞めろっと制止をしよう山川の顔を押しのけたが、その腕を掴まれそのまま窓ガラスに肩を押さえつけられた。

「ねぇ。お前…。井上のこと好きなの?」
「えっ……」

 あ―――またキスされる。
 咄嗟に身を捩った反動で、俺は持っていたピックケースを落としてしまった。無残にもケースは割れて中のピックがあちこちに散らばった。驚いて山川の力が緩んだ隙に、思いっきり突き飛ばした。



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コピペした文章を整えながら修正したくなる
時間を見つけてします…


最後まで読んでくれてありがとうございます
よろしければ、また明日
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