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 演奏が始まる前の会場は、独特な雰囲気がある。演奏者以外にもいろんな人たちが入り乱れていて忙しない。音響や照明の打ち合わせ、マイクテストを繰り返しこれから始まろうとする音の世界は、だたそれだけで俺の体を興奮へと高ぶらせた。

「やっべー。緊張してきた…。結構クルな…これ」 

 山川の音がいつもより走っている…。こいつでも緊張するのか…そう思ったら、急に可笑しくなって何かがパチンと弾け、頭の中がものすごくクリアになった。言いようのない焦燥に追いつめられるのも、次第に快感へと変わってくる。その瞬間がたまらなく好きだと感じる。

「おいおい…雰囲気にのまれんなよっ…いつも通りにいこーぜ」

 佐伯の一言で、メンバーの音が落ち着きを取り戻す。やっぱりこいつリーダーで正解。そんなことを考える余裕が出てくるくらいこの場の空気感は最高に気持ちがよかった。

「今日はよろしくね。自分たちの好きにやっていいから。あと十分位で開場だから」

「いえ…。こっちこそ、ありがとうございます」

 山川の先輩と軽くあいさつを交わした。リハを終えると開場のブザー音が鳴り響いた。
 本番までの数分舞台のそでで、客が会場内に入ってくる様子を眺めていた。スッと俺の横に山川が並び、ポツリと言った。

「今日……。あいつ来るの?」

「………たぶん」

「そか……。じゃっ、いこーか」


 ステージに上がると今日のイベントの事を聞いていた学校の奴らが結構来ていた。大きな歓声の渦に一瞬足元をすくわれそうになるが、ドラムのカウントが条件反射にとなって正常のスイッチを入れる。定番のアップテンポの二曲は山川のMCを挟み、これ以上のない盛り上がりを見せた。

「えー最後の曲は、今回が初披露になります。作詞作曲はリードGの野島鳴海。いきなりだけど、今日はサプライズで、ヴォーカル交代!!」

 山川の煽りに一気に会場のボルテージが上がり、歓声が地響きのように腹の底から伝わってきた。打ち合わせではこんなこと一切聞かされておらず慌てて山川に駆け寄った。

「ちょっ……ちょっと聞いてねーよ。いつ決めたよっ」

「さっき。お前がトイレ行ってる時にみんなで決めた」

「ま…まじ?無理だって…」

 佐伯が「マイク!声入ってる!」と制止に入る。会場からは笑い声と拍手が沸き起こり「がんばれ!」と激が飛んでくる。山川はマイクを遠ざけて観客を見つめながら耳打ちした。

「お前の曲だろ。今日お前が歌わないとこの曲の意味ねーんだよ」

 

 山川がセンターから外れると、佐伯にアイコンタクトを送るとキーボードの入りからコーラスが重なる、8ビートの心地よいリズムがベースの上を軽やかに刻む。
 強引過ぎる山川の計らいに腹をくくってセンターへ出る。何十回…いやもっと何百回と自分の中で歌い続けてきた歌。マイクを通して歌うのは初めてなのに、不思議なぐらいに曲に声が溶け込んでいく。胸の奥から泉のように湧き上がる感情が、会場いっぱいに言葉が音の欠片となって降り注いでいるのが見えた。
 会場は薄暗くてこちらから顔なんて見えない。それなのに、一番奥の壁際に持たれて腕を組むたった一人の人物が誰なのかはっきりとわかる。

 こんな状況でも見つけられるんだ…。俺…相当重症―――。


*****



「お疲れ様でした」

 外にでるとさっきの熱気を一瞬で吹き飛ばすぐらいシンと冷えていた。ブルッと身震いがして、ジャケットの襟元を耳のそばまで伸ばした。階段を上りきった先には、ガードレールにもたれるように克哉が立っていた。

「今日はおつかれ。打ち上げは明日だから…じゃぁな」

 山川がポンと軽く俺の肩を叩き、克哉に手を上げ合図を送ると、みんなあっさり帰って行ってしまった。なんとなく取り残された感じになってしまった。

「おつかれ。鳴海のマイク越しの声…初めて聴いたよ」

 克哉から吐き出される白い息を見つめる。蒸気は一瞬で外気に冷やされて口元をしっとりと濡れて、鼻先をほんのり赤くした表情がいつもより大人に見えて、俺の心臓が高鳴った。外はこんなにも寒いのに顔が熱くて「お…おう…」と相槌を打つのが精一杯だった。

「帰ろっか……。鳴海ん家行っていい?」

「うんって言わなくったって、来るんだろ」

「あはは…。そうだね」

 お互いの喋る息が白く目の前を濁らす。ほんの一瞬これまでの二人に戻り、憎まれ口をたたくのも久しぶりな気がして懐かしささえ感じた。





 家は誰もおらず真っ暗で、二階へ続く階段を外套の灯だけがぼんやりと浮かび上がっていた。自室に入るとやっと現実に感覚が引き戻されてホッとため息が零れる。同時に克哉もベットに腰を下ろして一息ついた。途端に、二人の間に緊張が走り出した。
 俺は平静を装ってクローゼットに向かい部屋着に着替えるが、明らかに背中が克哉を意識しているのが分かる。

「鳴海…。こないだ、聞いてほしいことがあるって言ってたよね」

「う…うん」

 背後から投げかけられた言葉にドキリとし身体が強張り、返答が上ずった声になってしまった。ヘンに意識しているのバレバレだろう…。

「聞いてもいい?」

「うん」

 そうだ…。ちゃんと言おう…。もう逃げたりはしない。俺は大きく深呼吸をした。

「あの中二の時の事……」

 どこまで克哉がわかってくれるかわからい。最悪な場合、俺の事を拒絶するだろう。それでも、克哉の誤解を解いておきたいと思った。
 部屋の真ん中にある小さなテーブルを端によけ、空いたスペースに克哉と向かい合うようにして床に腰を下ろした。そして、俺は思い出したくもないあの時の出来事を話し始めた。





 あれは、中二の夏休みに入る直前の事だった――――



『なーるー。キスしたことあるん?』

 克哉が突然何の前触れもなく聞いてきた。かなり俺は動揺した。そんなキスどころか恋のこの字も知らない俺には愚問だった。克哉から当時、校内で一番かわいいといわれていた三年の先輩から告白され、初めてキスをしたという報告だった。
 俺は軽くショックを受けた。同じ目線で歩いていたやつが急に大人になってしまっておいて行かれた気がした。俺のそんな気持ちはよそに、克哉はいつもと変わらず家に入り浸っていた。
 衝撃的な報告を受けて数日が立ったころ、克哉がいつものように俺のベッドを占領して昼寝をしていた。忌々しくその寝顔を見ていたら、言いようのない感情が込みあげてきた。
 思えばその感情こそが今ここにある想いの発端だったのかもしれない。
気が付くと俺は、克哉の唇に自分のソレを重ねていた。あまりにも唐突な自分の行動に何故そんなことをしたのか理由が見つけられず、罪悪感が心を締め付けていた。

 だが、事の次第はこれだけにとどまらなかった。その時大学生だった兄貴の彼女が家に遊びに来ていて、現場を見られていた。誰にも言わないからと半ば脅迫され、無理やり体の関係を強要された。屈辱的な行為なのに俺の気持ちとは全く関係なくその行為にのめりこんでしまった。




「…最悪だよな…俺…。自分の事棚に上げて、克哉にひどいこと言った」

 最悪だ…。やっぱりこれ以上、俺の気持ちなんて言ってはいけない。克哉を直視できず、うつむくしかできなかった。
 克哉が深くため息を一つついた。
 そうだよ…。呆れるよな…。一層の事罵って拒絶してほしい。ベッドに腰掛けて話をじっと聞いていた克哉が、俺の目の前に腰を下ろし手を取った。

「鳴海…。俺は……たけ兄の彼女を憎んだよ…。どうしようもなくて…女の子たちを利用したんだ。きれいごと並べて…。だからこの間、鳴海に本心を言い当てられて…。カッとなって俺も鳴海を傷つけた。まさか…そんなことがあったなんて、俺全然知らなくって…ひどい言い方した……」

 握られた手に克哉の熱い滴がポタッポタッと落ちてきた。

「なっ……なに…言って…んの……」

 克哉の言っている意味が理解できない。予想をしていなかった反応に頭の中がついていけない。克哉は、うつむいている俺の視線を拾うように覗き込みまっすぐ見つめてきた。

「鳴海……。俺はね…この気持ちはずっと不毛だと思っていたんだ。
だから、ずっとそばに居られるだけでいいって思っていた…。でもホントは…」

 待て―――。克哉。

 俺はつかまれている手に思いっきり力を入れ、握り返した。


「鳴海…?」

「言うな…。言うなって…」

 やっぱり、おかしいって……。理解の範疇を超えて溢れてしまった想いが首を横に振らす。

「鳴海?どうして……?俺…鳴海のこと好きだよ」

「なんっ…で、そんな…簡単に言うなよ」

 まともに面と向かうことができずに克哉の腕を振り払い身を背けた。情けない位に声が震える。克哉の言葉が嬉しいと身体が勝手に反応し始めてしまってあっちこっちが熱い。

「簡単じゃないよっ…。今まで、何年かかってると思ってるの?……何が怖いの?男同士だから?」

 克哉が声を荒げにし俺の腕を掴み返した。克哉の熱がジワリと直に伝わって鼓動が一気に加速し始める。

「そうだよ…。おかしいだろっ……」

 興奮気味に震える俺をそっと宥めるように克哉の指が髪に絡むと額を肩にのせた。

「おかしくていいよ…。鳴海と一緒に居られるなら……。周りにどう思われようが構わない。俺は鳴海が好きだよ。昨日の歌は俺のためだよね?自惚れじゃないよね?だから、言って…。鳴海の気持ちが知りたい」

 まっすぐな克哉の視気持ちがうれしいと思うのに、胸が苦しい。ずっとずっと、想い続けてきた…。何度も、何度も心の中で想ってきた。それが今報われようとしている…?

「お…俺のほうが…ずっと…ずっとお前と一緒に居たかったんだ…。彼女ができるたびに嫉妬した…。一人で帰るときも…。いつ部屋にお前が来るか…バカみたいに……待って…」

「ごめ…ん…」

 俺の肩に鳴海の柔らかい唇がそっと触れる。ゾクリと身体の芯が粟立ってひた隠してきた想いの糸がプツリと切れた。

「ホントに俺…可笑しいぐらいに……お前が好き……。どうしようもねぇーぐらい…好きだよ…
 どうすればいいんだよ。責任とれよ」

 溢れ出す言葉が止まらない。想いを告げたからと言ってこの先の俺たちがどうなっていくのかなんて全く想像もつかない。ただ、もう誤魔化してはいたくない。今思うすべての事を吐き出すと、克哉は力いっぱい頭から抱え込むように抱きしめてきた。

「うん…とるよ……責任取るから…。俺たち……ずっと恋し合っていたんだね」

「はっ…はずかしいヤツ……よく言えるな」

「鳴海とだったら…何だってできるよ」

「なんだって…って……なにすんだよ」


 克哉は身体を離し、額を合わせ微かに瞳は潤み色香がほんのりと漂っている。こんな表情の克哉は初めて見た。

「何するって決まってんじゃん。これからは…愛し合うんだよ…ねっ?」

 克哉のはずかしい甘い言葉に毒されたのか、身体の中が疼き始める。克哉が見つめ返す瞳には、俺が今一番求めているものがはっきりと映し出されている。お互いを包む腕により一層力を込めて抱き寄せた。
 
 そして俺たちはこれまでの想いをすり合わせそっと唇を重ねた。






*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。..。.:*・゚゚


短いお話でしたが、最後までお付き合いくださりありがとうございました。

この話はちょうど1年前に完結した話です。
展開がいきなり飛んだりして、省略された部分のエピソードを
付け加えたくなる衝動に駆られました。
手をつけると筋まで変わってしまいそうだったので
なるべくその時のままにしておきました。

こちらは単発的にスピンオフが今後出てきますので
その時は彼らの成長を楽しんでいただけたらと思います。



今日も最後まで読んでくれてありがとうございました
月曜日は、この作品の本当は一話目になるはずだったお話です。
それではまた、月曜日に…。


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